第4章 デートの木曜日
その後。2人は店の中にいた。
「やっぱここは日本酒かな」
「ニホンシュ?」
「この国のお酒。お米から出来てるんだよ 呑むでしょ?」
「うん」
「お酒イケる人?」
「付き合いで呑むことはあるかな」
「そっかぁ。じゃあ今日は私に付き合ってね」
個室の座敷に通されると着物を着た女性従業員がメニューを丁寧に説明してくれる。お勧めを聞き 1番人気のコース料理と共に、これまたお勧めだと言う酒を注文した。
少しの間をおき、日本酒が運ばれる。
小ぶりの盆に乗る陶器の徳利は 暖かい色合いで、要所に金箔が施され落ち着いた華やかさがある。揃いのお猪口をイルミに手渡した。
「どうぞ」
「何これ」
「お猪口。乾杯しようよ お酌くらいするから」
掌の面積を持て余すイルミは お猪口を逆さまにひっくり返す。四方からそれを観察していた。
「これがコップの代わり?なんでこんなに小さいの?」
「…なんでと言われるとなんでだろう わからない…」
「飲みにくくない?」
「あっ!!こっちの徳利は こう注ぐ時に“とくりとくり”って音がするからそれが名前の由来なんだって言うのを父さんに聞いたことある!」
「うまく話をそらせたね」
お猪口を差し出してくるイルミへ、香る酒を注いでやる。
「失礼します、お待たせいたしました」
女性従業員が料理を運んでくる。大皿の絵柄を透けさせる職人技の光るフグ刺しが運ばれた。薬味の紅葉おろしが、白に鮮やかな彩りを添えている。
「お次はふぐの天ぷらをお持ちいたしますね。」
立ち上がる店員に 美結はにこりと笑みを向けた。
箸置きの横に置かれたお品書きを見れば、まだまだこの先も料理は盛りだくさんではないか。