第4章 デートの木曜日

「10万もあるけど…どうしたの？このお金」

「護衛の必要なさそうだから他に出来そうなのはこういうコトくらいだし。ミユの留守中にちょっと稼いだ」

頭の中にドキリとした考えが浮かんだ。どこか半信半疑であった内容が 一気に色を濃くした。

「……え……殺し屋……したの？」

「してないよ」

「……盗んだ……とか？」

「まさか。細かく話すと長いけどきちんとビジネス協定の元で得た金ではある」

そうは言われてもこの世界で自己を証明するものすら持ち合わせていない人間が 半日で10万もの大金を得たとなると 仕事内容は公ではないものに限定される事くらいはわかる。
複雑な顔でイルミを見上げれば、取繕われたマネキンのような口元から「どの世界にも裏側の人間はいるものだ」と怖い台詞が落ちてくる。握った10万円が ずしりと重くなる。

「どうしよう…このお金…」

「使って食べようよ。さっきの魚を食べるにはそれで足りる？」

「全然足りる…あと3人は呼べると思う…」

いきなり大金を手渡されても戸惑いが先行してしまう。
表沙汰ではないやり取りに首を突っ込んだであろうイルミは、普段の通りけろんとしているが それがむしろ怖くなる。


「イルミ……何もしなくていいから 危ないことしないで」

「危なくないよ」

「危なくなくて簡単に10万も稼げる仕事はないと思う」

「心配しなくていいよ。ミユには迷惑かけないし」

「そうじゃなくて。イルミのことが心配なんだよ。もしも…もしも何かあったらどうするの」

赤の他人ではあるが数日間も同棲同然に共同生活をしていれば友人に似た感情は芽生えてくる。
美結はきゅうと眉毛を寄せた。