第4章 デートの木曜日
「ミユ この魚なに?」
「これは、フグかな……多分」
イルミの視線の先には 店の外から見える形で設置されている生け簀があり、個性的風貌の魚が悠々と泳いでいる。
「こんな魚ははじめて見たな」
「そうなんだ、面白い顔してるよね。でもフグって毒あるんだよ」
「へえ。神経系?実質的に作用するヤツ?」
「え?」
「生物毒だと神経系かな、主成分何?」
「さぁ…………」
イルミの食い付くポイントは時々よくわからない。
学生時代は毒物質の研究でも先行していたのかと 頭の中で突っ込んでみた。
イルミは尚も、興味深そうにフグの動きを追っている。
「…イルミ フグ食べたいの?」
「食べられるの?毒あるのに?」
「ちゃんと免許持った人が捌くはず、確か内臓は規定の方法で破棄するんだよ」
「臓器ってやっぱり肝臓とか?」
「………………」
これは話題を引っ張り続けるイルミからのおねだりなのだろうか。
希望であればご馳走してあげたいが、フグといえば ふらりと立ち寄るには少し値が張るイメージもある。美結は困った顔をした。
「ん~フグかぁ……ちょーっと予算オーバーかも……どうしよう」
「あ、そうだ」
イルミはようやく生け簀から目を離す。パンツのポケットから何かを差し出してくる。
「あげる」
「……なにこれ……」
「なにってトウキョウトミナトクのお金じゃないの?」
差し出された紙幣を見て美結は驚いた顔をする。
そういえば先日イルミに3千円の小遣いをあげたが、目の前にあるのはどう見ても万札が複数枚だ。
渡されるままそれを手にとり数えてみれば、一万円札が10枚もあるのだから解せないのは当然である。
おそるおそる顔を上げ、イルミの表情を伺う。