第4章 デートの木曜日
ちょうど良い時間に待ち合わせの駅に着いた。
人で賑わう改札を出ると美結はあたりをくるくる見回し イルミの姿を探す。見つけるよりも早く後ろから声をかけられた。
「どこ見てるの?キョロキョロしすぎ」
「わっ!!…びっくりした~驚かさないでよ」
振り返れば美結を見下ろすイルミの姿があった。日常生活の中でも イルミは時々妙に素早い動きをする瞬間があるが、今はそれには触れずに笑顔で礼を述べてみる。
「見つけてくれてありがとう。よくわかったね こんなに人いるのに」
「うん。この程度の人混みならミユがどこにいてもすぐにわかるよ」
「………え」
イルミの台詞を素直に捉え、美結は眉を上げる。
待ち合わせ時に やや意味深な台詞を言われれば嬉しくないはずがないし、夜の幕開けとして悪くはない雰囲気だ。
美結は笑顔を更に深いものにする。初デートに拍車をかけるべく きちんとこの世界に溶け込めているイルミを素直に褒めてやる。
「こうして見ると全然違和感ない。似合ってるね その服」
「朝は文句言ってなかった?」
「イルミが何でも着こなしそうだから もっと似合うのあったかなーって脳内検証してただけ!」
「なにそれ」
お世辞ではなくそう感じた。
イルミの風貌と落ち着いた雰囲気は、せせこましい人間ばかりの夕暮れの駅で堂々と異色の余裕を放つ。今日はそれが美結自身の連れなのだから鼻も高くなる。
思い切り図に乗り腕でも組みたい所だが さすがにそれは自重した。
「……ふふっ」
「どうかした?」
「イルミは……カッコイイね!」
「そう? それはどうも」
言われ慣れているようには見えないが ストレートに褒めてみてもさらりとかわし、全く動じない所はイルミらしいと思える。美結はこれからのプランに足を進めた。