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〈H×H 長編〉擬似的な恋愛感情

第4章 デートの木曜日


17時半、本日の業務が終了する。

「お疲れ様でした」

美結は定時と同時にパソコンを閉じフロアを後にする。普段であればそのまま帰路に着くところだが 本日は職場のトイレに直行した。

大きな鏡に自身の顔を映した。
ファンデノリをチェックし、空調で乾いた唇にグロスを乗せ直す。携帯用のコテで毛先を簡単に巻き直し、ビューラーでまつ毛を整える。最後に甘過ぎないシトラス系の香水を纏わせれば完成だ。
これはイルミに限った事ではないがデートはとても楽しいもの、前準備として手順よくメイク直しをする。

「河合さんてホント女子力高いよねー」

「……そんな事ないですよ」

隣から声を掛けられた。鏡越しに目を合わせれば隣の部署の先輩社員がいる。
彼女との仲は良くも悪くもない。あくまでも職場の先輩後輩の関係で 互いに暗黙の了解のもと、これ以上深入りし合うつもりはない。

雰囲気からすると先輩は今日も残業だろう。美結を横目に大きく伸びをしながら羨む声が聞こえてくる。

「これから彼氏とデート?いいなぁ」

「違いますよー女友達と飲み行くだけです。今彼氏いませんし」

美結はメイク直しを終え化粧ポーチをさっさと片付けた。先輩の右薬指にちらりと視線を投げ 笑顔で話しかけてみる。

「先輩こそ彼氏いて羨ましいですよ いいなぁ。私もそろそろ彼氏欲しいのに全然出来ないし…」

「忙しくて全然会えてないけどね。てか河合さんは絶っ対モテるでしょ、理想が高すぎなんじゃないの?」

「全然ですよ!……私好きになれば一途なんですけどねー どうして彼氏出来ないんだろ……」

溜息を込めてそう言った。女社会は難しいので この手の質問には大抵こう答えるのだ。

何かと男性社員にチヤホヤされる美結は社内で女子社員からの評価がお世辞にも良くない事は重々承知している。
可愛いやモテると言った褒め言葉を真っ向から否定するのは嫌味になることも知っている。
そういう場合、相手の自尊心を傷付けず 曖昧に言葉を濁すのが賢いやり方だと経験で学習してきたのだ。

先輩の「またまた!」という突っ込みに笑みを返し、美結は足早にオフィスビルを出る。
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