第4章 デートの木曜日
「週末雨かぁ…せっかく出掛けようと思ってたのに残念」
「雨でも外出は出来るよ」
「そうだけど…雨嫌だな 髪広がるし靴も限定されるし」
「仕事やりやすくなるからオレはそんなに嫌いじゃないけどね」
「イルミは土日休みじゃないの?」
「殺しに曜日は関係ないし」
「あっ そっか 殺し屋さんだもんね」
「まだ信じてないよね?」
「そんな事ないんだけど、根拠になるものがないっていうか…」
いつの間にか他愛ない会話が自然に出来るようになっていた。
美結は皿に残る最後の一口をイルミに勧め、頬杖をついたまま目の前を見つめていた。
「……やっぱカットソーじゃなくてシャツの方がよかったかな」
「どっちでもいいってば」
きちんとした印象のシャツの方が似合っていただろうか、洋服とは着てみるとイメージと印象が違うものであるから難しい。美結の考察をよそに、当の本人はそんな事はどうでもいいと言いたげな態度を貫いていた。
出勤の時間が近くなる。
美結は通勤バッグの中身をざっくり確認し、洗面所からコードレス式のコテを持ち出した。いいタイミングで洗濯機から脱水完了を告げる音が聞こえる。洗濯物をカゴに入れながらイルミに声をかけた。
「イルミー」
「なに?」
「悪いけど洗濯物干しておいて欲しいの。ハンガーは窓の横の収納扉の中にあるから」
返答はなく少しの間、イルミが洗面所にひょっこり顔を出す。
「洗濯物を干す?」
「うん」
「オレが?」
「うん」
素早く取り出した自身の下着だけは寝室に干すことにする。洗濯衣類が雑に入れられたカゴを「はい!」とイルミに手渡した。
「私行くね。あっ 今日は18時に昨日の駅集合で」
美結が慌ただしく去った後、イルミは無言のままカゴの中身を見つめる羽目になった。