第3章 お料理をする水曜日
「いいよ。とりあえず、やってみる」
説明を全て聞き終えたイルミは大人しくキッチンに消えて行った。母親の言いつけを素直に聞く子供みたいで 大きな背格好が急に可愛らしく見える。言えばこうして手伝ってくれるのだから、期間限定の同棲生活もそう悪くはないのかもしれない。
テーブルを布巾で拭いた後、美結は昨晩と同様にノートPCを準備し、1人黙々と作業をはじめた。
「……ッ!」
ガチャンと潔いまでにはっきり食器の割れる音がした。美結はハッと顔を上げキッチンに駆け込んだ。
「大丈夫?!どうしたの?!」
「ちょっと滑った」
けろりとしたイルミの顔から シンク内に目を移してみる。美結は悲痛の声をあげた。
「あああぁぁあ~!よりによってコペンハーゲンのお皿が~~!!」
友人の披露宴出席時にもらった海外老舗メーカーの食器が真っ二つに割れているではないか。慣れない事は仕方がない、とは言え何故その皿なのかと思うと やるせない気持ちもある。
「せめて100均のにして欲しかった…」
「一旦はキャッチしたんだけど予想以上に洗剤が滑って」
「うん…いいよ…頼んだのは私だし…。怪我はない?」
「怪我?オレが?」
「うん。手切らなかった?」
「この程度じゃ切れないよ」
そんな時、部屋のインターホンが鳴る。
こんな時間に人が訪ねて来るケースは多くないし、昨晩ネット注文をしたイルミの服かと易々予想がついた。
「多分宅配の人だ…!もらってくるね」
そう言い残し玄関へ向かえば、届いた荷物は想像通りだった。
小さく畳まれた服を取り出し リビングのラグの上に広げてみた。値の張るものではないし ネットショッピングは届いてみないと品質が不明確な場合も多いが、まずまずしっかりした品だった。