第3章 お料理をする水曜日
「……でもね、うちの母さんの作るお好み焼きはもっともっと、うんと美味しいんよ」
「ミユのその訛りと言葉遣い」
イルミの指摘にはっと顔を上げる。
ほぼ無意識に 普段は気を付けている方言が、ほんの時々こうして出てしまうことがある。
「癖なの?それって」
「ううん。ええと…方言ていって、私の出身地の話し方なの」
「ここに来て初めて聞いた。なんか面白いよね」
「……恥ずかしいんだから指摘しないでっ」
イルミは真顔で言うので少しも面白いと思っているようには見えなかったが。美結は照れ笑いを浮かべ、お好み焼きに箸を落とした。
「はぁ~食べたね~お腹いっぱい」
「昨日ダイエットするって言ってなかった?」
「………お好み焼きの日はいいの。明日からまたするー」
「それ意味あるの?」
「………あるよ!」
その後、片付けや入浴を後回しにし、色々な話をした。
互いの世界の事、家族の事、仕事の事。
解答が正しいかの判断は難しいが、疑問に感じている点を訊けば イルミは何でも教えてくれた。美結には信じられない内容も多かったが、嘘を言っているとも思わなかった。
話の全てを理解し飲み込める訳でもなく、どこか夢見心地で 美結にとっては非日常と言える話を聞いた。
会話の切れ目にふと時計を見ると、22時を過ぎている。
そう言えば持ち帰った仕事がまだ未処理であるのを思い出し 美結は面倒くさそうに眉を下げた。
「もうこんな時間…残ってる仕事やらなきゃ…」
「仕事が残ってたの?」
「うん。実はね……」
空いたイルミのグラスに麦茶を半分ほど注ぎながら ごちゃついたテーブルを見る。ソースはすっかり乾き平皿にこびりついていた。作り食べる、まではいいが 一呼吸置いてしまうと片付けは億劫になってしまうものだ。
美結はふと視線を上げる。麦茶グラスを傾けているイルミに、甘えた声を出す。
「ねえイルミ…お願い聞いて?」
「なに?」
「食器洗って欲しい……」
「え オレが?」
「うん。あ、簡単だよ?シンクにあるスポンジに洗剤を泡だててから…」
1番場所をとるホットプレートを退かし 同類食器を重ねた。口頭で説明をしながらテーブルを少しづつ片付けてゆく。