第1章 あなたと出会った月曜日
「携帯見て笑ってないで まずオレの存在に気付こうよ」
「…………え?」
聞きなれない声がして美結はぱっと顔を上げる。
そこにはなんと見知らぬ男、いや、身長や体格から察するにおそらくは男であるが それは兎も角 部屋に不審者がいる。反射的にスーパーのレジ袋が落ちた。
咄嗟に回れ右し 開けたばかりの玄関のドアを出ようとする。しかしそれは叶わず、謎の侵入者はどうやったのかと問いたくなる程のスピードで ドアと美結の間に立ちはだかっていた。
「待ってよ。ここってどこの国?見た所そんなに文明未発達ってワケじゃなさそうだけど」
「け…警察…っ変態!変質者!」
つい声を大きくする。男は両手を軽く上げ 悪びれる様子もなく言った。
「オレは怪しいモンじゃないよ。身体ごと飛ばされるなんてオレも初めてで 何らかの意図があってここに来たんじゃない」
「…はい?…」
「ここはなんて国のなんて地域?他にも色々聞きたいんだけど」
このご時世、どこにどんな手口で悪意を働く人間がはびこっているかわかったものではない。これは新たなやり口と訝しみ至極冷たい眼差しで「東京都港区ですけど」と早口で話すと 不審者は念の入った演技でころりと首を傾げてしまう。
「トウキョウトミナトクか…聞いた事がない 本当にここは異次元なのかもしれないな」
「出てって下さい」
「それは出来ない」
男はリビングにある二人掛けソファに我が物顔で腰を下ろす。眉間に縦皺を寄せながらその様子を見ていると男と目線がぶつかってしまった。
「入ったら?キミの家でしょ」
「……その筈」
「名前は?」
「…河合 美結…」
「ミユね」
「てか、あなた誰?」
美結の口調は鋭い。男は無表情のままに答えた。
「イルミ」
「…え?」
「イルミ=ゾルディック。こっちの世界じゃファミリーネームはそこそこ有名だけど…って言っても異次元みたいだしわかんないかな」
「?…日本語うまいけど、外国人さんて事?」
「そうとも言えるけど正確には違う次元の人間」
日本語はとても流暢ではあるが名前は横文字風であるから外国人だと言うならどこかしっくりくるのだが。
違う次元とはどういう意味かはわからないままだった。当然の疑問に美結の眉間の皺はますます深くなる。