• テキストサイズ

〈H×H 長編〉擬似的な恋愛感情

第3章 お料理をする水曜日


「キャベツも切ってみる?包丁は出来そう?」

「調理用のは使った事ないけど刃物の一種だしそっちは多分いける」

「じゃあお願い。千切りにしてね…えっと、出来るだけ細く切って!」

包丁の柄を手渡しすると イルミは銀色に光る刃先の方へ視線を注いでいた。人差し指をそこへほんのり押し当てる様は それこそ形だけの料理人みたいだ。査定の時間は少々続いている。

「料理に使う刃物ってこんなモン?」

「何が?」

「切れ味の意味で。あえてそうしてるのかな」

どうやら文句をつけられているようだ。
小まめに研いでいるわけでもないしと あしらう返事をしてから、生地やその他の食材の準備を進めていった。


下準備が終ればあとは焼いて食べるだけだ。何度も作った事があるしその手順は慣れたものである。美結はリビングのホットプレートで手際良くお好み焼きを作り上げてゆく。

「ひっくり返す直前に刻んだ梅干しをちょーっとだけ入れるのが河合家流、さっぱりして意外と美味しいんだよ」

「なに?それ」

「んーと 昨日のお弁当の柴漬け覚えてる?あれの従兄弟みたいなもん」

「なるほど、イトコね」

見張るように頬杖をついたまま 美結の動作を観察し続けるイルミの前で、お好み焼きを完成させた。
色合いと香りは満点と言えるが 問題は味の方。友人達の評価も高いし自信はあるが、異世界の人間にはそもそも口に合うのかという観点で気になる所だ。お好み焼きを食べるにしては上品に口を開けるイルミを 真正面からじっと見つめる。


「……美味しい?」

「うん」

「良かったぁ!」

素直な感想にほっと胸を撫で下ろした。一口目を頬張る前に イルミに度々の質問を投げた。

「どうだった?初料理の感想」

「まあ……それなりに手間がかかってるって事はわかった」

「お料理しないって事はイルミは実家暮らしなんでしょー?ホント親には感謝しなきゃだよね」

自分でそう言いながら 美結は広島にいる母の事を思い出していた。料理のいろはを細かく教わったわけではないが、お好み焼きは何度も一緒に作った記憶があるし尚更懐かしくなってくる。
柔らかい湯気の上がる自作のお好み焼きを見下ろしていると、自然と口から言葉が出てしまう。
/ 158ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp