第3章 お料理をする水曜日
スーパーの袋から買ってきた材料を取り出し、粉やソースなど家にあるものを調理台の上に並べる。シンク下からボウルを取り出し、立ち尽くすままのイルミに指示を出した。
「私 野菜切っちゃうからさ これに卵割って欲しいな。あと食器棚から取り皿出しといてー ついでにコップも」
「卵を割る?」
「うん」
そう言ったきり動く気配のないイルミを見れば 調理台の上に置かれたパック入り卵をただ見下ろしているだけだ。推測を確信にすべく美結はイルミに問い掛けた。
「……お料理全然やらない人?」
「やる必要ないし」
「ナマ卵割ったことある?」
「ゆで卵は作ったことあるよ」
「…ナマと茹ではだいぶ違うかも」
「ま、とりあえず手本見せてよ」
美結は卵を手にしボウルに割り落として見せる。
「こんな感じかな そんなに難しくはないよ」
「わかった」
イルミの器用さは昨日に確認済み、見ただけであれだけ箸を使えるならば 卵割りくらいは余裕であろう。
そう思いまな板にキャベツを乗せた瞬間、グシャリと聞きなれない音が耳に届き イルミの手元に目を向けた。
「ちょっと力が強過ぎた。貸して もう一個」
「……これじゃあ割ると言うよりも潰すだね」
卵黄の絡む指先を差し出してくるイルミに もう一つ卵を手渡してみる。すると次はそこそこキレイに割って見せるのだから やはり元々器用なタイプなのだろう。
「…でもだいぶ殻が入っちゃったなぁ」
「コツは掴んだ。あと何個?」
「いや、生地の分はもういいよ」
それでも多少の得手不得手があるならば人間としての可愛げがある。美結は菜箸でボウルの中から殻を拾い、次のオーダーを出してみる。