第3章 お料理をする水曜日
「ただいまー」
帰宅と同時に美結は準備を開始する。寝室で早々部屋着に着替え、ぱっぱと髪をまとめる。
キッチンのシンク上にある収納扉の中から水色のフリル付きエプロンを取り出した。その紐を後ろで結びながらリビングにいるイルミに声をかけた。
「何休んでるの!手伝って!」
「は?」
「は じゃないよ。折角だし一緒にやろう?」
「何を?」
「お料理。お好み焼き作りに決まってるでしょっ!」
円形のホットプレートをリビングのテーブルに置き、ソファに座りテレビリモコンを構えていたイルミの腕をくいくい引っ張った。
一緒に料理を作り仲良く食事をする、これぞ同棲というイメージが膨らみ楽しくなる。
「一応エプロンあるけど使う?服汚れると嫌でしょ」
二枚所持しているエプロンのうちのもう一枚を広げ、首を通す紐部分を少し長めに調整する。モノトーンの花柄が散るエプロンを両手で持ち、頭を下げてと行動で促した。
「女物でしょ それ」
「うん。でもフリフリよりはこっちのが良くない?二枚しか持ってなくて」
「いいよ なくても。服が汚れるのなんて日常茶飯事だし」
「いいからいいから。お料理は形からだよ」
笑顔を作りイルミへ無理矢理腕を伸ばせば、諦めたのかほんのり背中を丸めてくれた。
提案したのは美結であるが 抱きつくような体勢は少し気まずくもある。長い髪に触れぬよう気を遣いながらエプロンをイルミの首にかけ、素早く手を引っ込めた。
「あっ いいかも」
「なにが」
「イルミは黒が似合う」
「この感じを褒められてもね」
イルミの背後に回り黒いエプロンの紐をリボン型に結んだ。
バックスタイルも可愛らしいが さすがは男性だ。体型はスラリとして見えるが 出来たリボンは見事に小さいし エプロンの長さもおかしかった。イルミは元通りに背筋を伸ばした後 首元の紐に埋まった髪を違和感ない手つきで無造作に出す、その仕草が微笑ましかった。