第3章 お料理をする水曜日
自身が元の世界に戻るために不可欠である「ミユの部屋」と言う空間、そこを脅かす可能性があるかもしれない“能力者”という存在が この世界にもいるのかどうかを探っていた。
アパート近隣を見回ればそれなりの人間がいれば気配を察することは可能。テレビにはこの付近以外の国や地域も放映される訳で、『凝』にて観察を続けていれば該当者がいた場合 その存在を確認する事が出来る。時間があれば集中力の限りをテレビへ向けていたのはこれが理由だった。
独自調査の結果、この世界には念を使う人間は高確率でいないし、少なくともあの部屋付近には絶対にいないと断言出来る。導かれた答えはそれだ。
「イルミー?」
「……」
「どうしたのー?」
「……」
例えば仮に。
どうにかしようと思えば1秒も必要ない程 ミユの注意力は基本的に散漫だ。無駄にまばたきが多く 動作も遅くて単調、心身共に脆弱そのものに見える。いかにもな温室育ちの呑気な女に 事情を1から説明した所で理解は難しいだろう。
言葉を探すしかない。
「ねぇイルミ 何がわかったの?この世界の事」
「まあ つまり……ミユみたいな人間には住みやすい世界だろうなって事がわかった」
「…私みたいな…?」
「オレの世界に比べたら危険が少ない、平和って言ったらいいのかな」
「平和かあ…ま、日本は戦争しないし世界的に見れば治安もいいしね」
美結はへらりと笑っていた。そこから目を逸らし、イルミは目元を細くする。
「にしてもさすがに目が疲れたな」
「ん?目? だってホラ、イルミはテレビばっかり見てるからだよー」
「え?…………ああ、うん」
「そうだ!冷凍のブルーベリー買ってあげようか」
「何それは」
「目にいいの」
美結はそう言いながら 店内をくるくる見渡している。