第3章 お料理をする水曜日
美結はほっと息をつき、ふにゃりと安堵の笑顔を見せた。
「そっかぁありがとう。何かあったのかと思って焦っちゃった」
「特に問題は何もないよ」
「でもよく駅わかったね。日本語読めないのに」
「昨日地図見たし」
確かに昨晩地図を催促された。
その意図は美結を迎えに来るためだったのかと自分に都合良い考えが浮かぶ、なかなか可愛い所もあるじゃないかとにやけていると 少しずれた補足が追加される。
「あの部屋を警備するのにこの辺りの構造くらいわかってないといけないしね」
「…なんだそういう事…。最初に言ってた護衛って話、本気だったんだ」
「ここでオレに出来そうな事ってそれくらいしかないし」
美結の足は自然にいつものスーパーへ向かう、イルミは隣について来る。
態度は若干 傍若無人に見えなくもないが、意外と律儀な所もある様子。単純に借りを作るのが苦手なタイプかもしれないが 恩には恩を返すべきと、一般的なマナーは持ち合わせているみたいだ。
「らっしゃいませ!本日の特売品見てってよ おねぇちゃん!」
駅前のスーパーに入れば 成果コーナーの中年男性が元気な声を飛ばしてくる。それを他所に 二人は会話の続きをしていた。
「イルミに何も期待してないから気にしなくていいのに。あ、お部屋のお掃除くらいはしてくれたら嬉しいけど」
「ここ数日でこの世界の事は大体わかった。何もしないまま終わりそうかな」
「ん?この世界の事って?何がわかったの?」
探る目を向けてくる美結を イルミは静かに見下ろした。そして この世界へ来てから行なっていた考察を脳裏に思い浮かべた。