第3章 お料理をする水曜日
あまりいじるのも可哀想かと思い 話題をずらしてやる。
「イルミは今日もこの近場にお出掛けするの?」
「うん。またこの辺を見て回る」
「迷子にならないでね」
「ならないよ 子供じゃないんだから」
「戸締りはよろしくね」
「了解」
当たり障りのない会話と朝食を終え 美結は歯磨きへ向かう。洗面所にある自身の歯ブラシの隣に置かれた もう一本のそれがふと目に止まった。
買い置き分の歯ブラシを一本イルミにあげたのだが、同棲中さながらの光景の割りには 並ぶ歯ブラシはピンクとオレンジ、2色ともクリーミーなパステルカラーであるからどこか面白い。美結はピンク色の歯ブラシを咥え ニコニコしながらリビングに顔を出した。
「ふぁんかは、ほうへひひてふひはひひゃはい」
「したことないしわからない」
目を離せばまたもテレビに食いついているイルミはきっぱり答えを返してきた。モゴモゴ話した言葉がよく伝わったと感心しながら 目元でふふ、と笑って見せた。
「さっき“同棲してるみたいじゃない?”って言ったの。よくわかったね」
「まあね」
「実は私も同棲はしたことないからわからないんだけど」
「同棲かどうかはさて置き、この世界は…というよりこの環境はオレには新鮮ではある」
「そっかぁ」
可愛い女性と1つ屋根の下、面倒まで見てもらえるこの状況の素晴らしさがわかってきた。美結の脳内では都合よくそう翻訳される。