第3章 お料理をする水曜日
次はキッチンへ行き お湯を沸かす。
フルーツグラノーラを小さなガラスボウルに開け、そこにプレーンヨーグルトをかけながらイルミに食べるか聞いてみると、朝はいいと返事が返ってきた。
先月の誕生日に友人の伊織が『彼氏が出来たらどうぞ。笑』と余計な一言と共にプレゼントしてくれた揃いのマグカップをはじめて使用してみることにする。インスタントコーヒーをお湯で溶かし湯気の立つカップと朝食を持ちリビングへ戻った。マグカップのひとつはイルミの前に置いた。
「飲みなよ。シャキッとするよ」
「どうも」
マグカップを口に運ぶイルミはしつこくもテレビに夢中だ。共同生活の中、あれこれ気を使われ過ぎても疲れるが あまりにマイペースにされるのも癪ではある。
「ご飯だぞー テレビ消していい?」
「…………」
「消しまーす」
美結はリモコンでテレビの電源をぶつんと落とし 笑顔でもって「朝は挨拶とお話がしたい」とそれらしい理由を付け加えた。
一言くらい文句を言われるかと思ったが イルミは何も言わなかった。1度ゆっくりまばたきをした後、湯気の舞うマグカップに視線を落としていた。
「……これ何?」
「コーヒーだよ。世界共通かと思ってたけど イルミの国にはコーヒーないの?」
「コーヒーはあるけど。なんて言うか 味も匂いもオレの知ってるのとは全然違う。薄いというか」
「そう?インスタントだからかなぁ?」
マグカップを両手に持ち、愛らしく首をくいっと捻ってみた。
さすがは引きこもりフラグの立つ世間知らずな男だ。どうせ子離れ出来ない親に甘やかされコーヒーと言えば ドリップ式こそスタンダードだと思い込んでいるのあろう。現実というものを教えてやりたくなる。美結はガラステーブルに頬杖をつき にこりと微笑んだ。
「お湯入れて混ぜるだけで、たった3秒でコーヒー飲めるんだよ?便利な世の中だよね~!私は大好きっ」
返答はない。しばらくカップの中を見つめた後、イルミはそれをテーブルに置いてしまった。