第3章 お料理をする水曜日
週の真ん中 水曜日。
美結の起床時間である6時半に スマホの定型音とバイブレーションが鳴り響く。
「……ん~……」
朝とは誘惑の塊だ。昨晩はぐっすり眠れたとはいえ それでも当然まだ眠いし柔らかい布団と離れるのは惜しい。枕元でうるさく震えるスマホを無視したまま 枕に顔を埋めていると 部屋にノック音が聞こえてくる。
「アラーム鳴ってるよ 起きないの?」
「………」
「ねえ」
「………」
「3秒以内に起きないとドア壊すよ」
「…何それ…起きてるもん…」
嘘が誠か、朝っぱらから物騒な事を言うイルミの声を受け 渋々ベッドから身体を起こす。
リビングに向かうとアニメ柄付きスエット姿の男は 2人掛けソファに一人でゆったり腰を掛け 朝のニュース番組を見ていた。ぼけっとしながらこちらもテレビに目を向けてみる。
『……では次のニュースです。一般に言う“引きこもり”の若者は年々増加傾向にありますが、内閣府の調べでその割合が過去最多であることがわかりました。対策として政府は、』
「……………。」
なんとタイムリーなニュースだろうか。
まるで我が家にやって来た居候のことみたいだ、本人は気付いているのか否、美結はイルミへ横目を向ける。
朝日の射し込む遮光カーテンは閉められたまま、薄暗い部屋の中でテレビにのみじっとり集中しているイルミの引きこもりっぷりにはかなりの年季を感じる。指摘せずにはいられなかった。
「イルミ、いつもテレビ観てるねー」
「たまたまだよ」
「テレビっ子なの?」
「そういうワケでもない」
否定しつつもイルミは食い入るまでに画面から目を離さなかった。美結はふうと息をつく。別にイルミの人生であるし本人の好きにすればいいことだ。
「寝起きの日光浴はセロトニンを増やすから」とうんちくを垂れ 部屋のカーテンをがばりと全開にし大きく伸びをする。美結は洗面所に向かい、普段通りに卒なく身支度を終えた。