第2章 期待と不安の火曜日
イルミは何やら自分で納得をし 美結の隣に腰を下ろしてくる。パソコン画面を見ながら質問を投げてきた。
「この辺りの地図画像はないの?」
「え?地図?」
「うん。この世界を見て回りたいし」
美結はイルミの横顔を見つめた。
異次元から来た人間にすれば この世界を知りたいというのは当然の欲求とも思える。幸い、港区にはお洒落な店やデートスポットも色々ある。美結の表情がぱっと明るくなった。
「わかった。イルミに服買おう!」
「え?服より地図が見たいんだけど」
「出掛けるならまず服だよ。仕事の後に一緒にお出掛けしたりしてもいいしね」
「いいよ わざわざ。元の服あるし」
「あれかぁ…あれはここだとちょーっと個性が強いから…」
「オレこの世界じゃ金払えないよ?」
「いいよ。ここに来たのも何かの縁てことでプレゼント」
美結は検索バーに「メンズ 服 最短納期」と入力をした。早い物なら翌日に届くのであるから便利な世の中である。洋服はいらなくなったらオークションに出してしまえばいい。
臨時収入があった事に気持ちも大きくなってくる。お世辞にも歳下子犬系男子には見えないが 気分的には迷子の猫でも拾った気分だった。外見故か男性に手を引かれるケースの多い美結だが、自分が先導するのも嫌いなわけではない。見たいと言うなら出来る限りこの辺りを案内してあげようと思う。
「サイズは〜…L?どんな服がいいかなぁ」
イルミ本人の趣味や承諾もなしに 仕事上がりの自分と並んでも違和感がなさそうな服達を勝手に選び、買い物カゴに入れた。
「…………よし!後は到着を待つだけだね。あ、あとそうだ」
美結は寝室のドレッサーへ向かう。小さな引き出しの中から部屋の合鍵を取り出し、それをイルミに手渡した。
「はいコレ、この部屋の鍵ね。出掛ける時は絶対に鍵かけてね!」
美結は PCの前で片膝を立てて座っているイルミを見下ろした、大きな両肩をぽんと叩きながら言う。
「感謝してね?私に」
「もちろん」
本当に感謝をしているのか、表情からは読めないが今はそこまで気にならなかった。入浴の準備を進めようと足を動かすと、イルミに地図を催促される。
美結はこの近辺一帯のマップを画面に表示してあげた。