第2章 期待と不安の火曜日
「……あっ!」
「どうしたの?」
イルミが静かに戻っていたようだ。
普段であれば独り言になってしまうが今日は会話になる、聞いてくれる人間の存在が素直に嬉しくなった。くるんと振り返りイルミに共感を求めてみる。
「あのね、ネットオークションに出してた服が結構いい値段で落札されたの!学生の頃は色んな系統の服回してたから私いっぱい持ってるんだよね、ギャルブランドとかお嬢っぽいのとか。あんまり若いのは今はもう着ないし捨てるのも勿体無いしね」
「よくわからないけど着なくなった服を売って収入を得たって事はわかった」
今朝と同じスエット姿のイルミが立ったままPC画面を覗き込んでくる。すっぽり影を落とされる中 美結はイルミを見上げる。近くで見るとこの男、やはり改めて規格外だ。
「…イルミ 背高いよね」
「そうかな」
「うん。お国柄なの?何センチ?」
「どうだろう。最近は測ってないしよくわからないけど」
成人を超えて尚、まだ成長する気なのだろうか。成長期の男子みたいな不明確な回答は少し面白かった。視線を下げれば にょっきりはみ出したイルミの手首が見える。
「……服 スエットだけじゃやっぱ足りないかな?洗濯も外出も出来ないしね。男性物の下着は私もさすがに持ってないし……」
「洗濯はともかく外出は出来るよ。今日もしたし」
「…えっ…外出たの?」
「うん」
「その格好で?」
「いや 元の服があるし」
それなら安心、というわけではないが イルミが外出するという可能性を考慮していなかった。そして当然 他の疑問も出てくる。
「大家さんには見られなかった?!勝手に2人暮ししてると思われたらヤバいんだけど…」
「オーヤって誰か知らないけど 入出時に人の気配は無かったよ」
「あとカギは?!カギ開けたまま出掛けたの?」
「うん。でも何かあればすぐ戻れるくらい近場にしか行ってないから大丈夫だよ」
「いや、でも鍵開けっ放しはさすがにまずいよ…物騒な世の中なんだから」
指摘をすれば、イルミは首を傾げている。
「ならそうだな。明日からは誰か使って見張らせるようにしようか。この世界がまだ未知数な以上、ホントはそういうの避けたいんだけど」
「……見張らせる?……誰かって?」
「にしても帰ったらさすがに説教かな。くだらないミスで仕事に大穴あけたワケだし」