第11章 ◉番外 St Valentine Day
「………わ、どうしよう伊織」
「どう?おいしい?」
「めっっちゃおいしい」
「マジ?!明日はここに生クリームも添えようと思うんだけどどうかな、甘すぎないかな?」
自分も横から箸を入れ 頭を悩ませている今日の伊織はいつもに増して魅力的。美結の存在は一層霞んでしまう。
「………なんかほんとムカつく、伊織誰か紹介して」
「あ、この前同期と新年会した時今の美結と同じ事言ってる奴いてさ。美結の写真見せたら毎日のように紹介しろって頭下げてくるんだけど」
「ホント?何点?」
「65点。いい奴だけどいい奴で終わるタイプ」
「ああーダメダメ。もっとこう刺激やドキドキをくれる人じゃないと」
「てか紹介しないし。いい奴なんだから美結の暇つぶしに充てがわれるのは可哀想だし」
「………はあ………」
話せば話すほど 現実世界は灰色そのもの。二本目の缶をグシャリと縦に潰しそれを握り締めた。
「………私、出逢いも彼氏もその気になればいくらでも作れるの」
「はいはい そうだねー」
「でも私が欲しいのはそれじゃないの」
「はいはい 何が欲しいの?」
「………ときめきが欲しい」
「ときめき?」
駆け引きや打算、そういうもの全てを取り払い全身全霊をかけて本気になれる恋愛がしたい。本当はそう思っている。いつからか、数式抜きでの恋愛の仕方がわからなくなっていた。
こちらは真剣であるのに。伊織はスマホ片手に茶化す声を出してくる。
「ときめきね~美結本気モードになると結構のめり込むからなーダメ男に引っかからないか心配」
「………引っかかったとしてもこの私にときめきをくれる男だよ?つまりそれはダメ男じゃない!!!」
「うわっ何その理論。 イタすぎ」
ふんっと顔を背けテーブルに片頬を押し付ける。酔いの熱にガラスの温度が水を差してくる。素直に瞳を閉じた。