第11章 ◉番外 St Valentine Day
「……………イルミに会いたい」
「え?なに?」
あまりにも小声で伊織には届かなかったようだ。夢物語は所詮夢、叶わないのだから聞こえないくらいで丁度いいのかもしれない。美結は勝手に会話を終わらせ 大きく切り取ったケーキを頬張る。
それを見ながら伊織はニコリと笑っていた。
「ちょっと前から思ってたんだけど。美結ホントはどっかにいるんでしょ?本命」
ケーキを噛みながら考えた。
本命という表現が適切なのかはわからない。イルミが去って以降、誰と出会っても付き合ってみてもどこか物足りず本気になれないのは事実であったが、今もイルミに恋い焦がれ未来に期待を持っているかと問われればそういう訳でもない。現実はわかっている。
ただ。好きという感情が登り詰める前、強制的に遮断されてしまったあの一週間に終止符が打てないだけだった。
「……別に本命じゃない。納得いかない形で終わっちゃったからなんて言うかやるせないだけ」
「未練たらたらだし」
「はあ…やっぱそうなるの?…せめてもう一度チャンスが欲しい…」
またもケーキを口に詰める。伊織の作ったザッハトルテはお世辞抜きに美味であるから 何故かますますやるせない。
人の不幸は蜜の味、そんな胸中が垣間見える伊織の明るい声がする。
「ねーどんだけイケメンだったの?その人」
「イケメンかはちょっと私もよくわからないんだけど……色々個性が強すぎて。身長は合格以上だったけど」
「ふーん? 美結の好きな王道爽やか系じゃないんだ」
「爽やかさはむしろなかった。でもなんていうか…硬派なんだよすごく。今時のチャラっとナヨっとした感じがなくて」
「硬派っていうと応援団?」
「あー違う!全然違う!そういう汗系の硬派じゃなくて むしろ冷血漢……冷めてるというかクールというか。なのに結構口が回って時々理攻めでグイグイくる、しかもアフターフォローなし」
「俺様ってこと?」
「とも違うんだよね……興味ないことにはとことん興味なさそうでなんでもいいーわかんなーいみたいな。一見すごくおっとりしてるし」
「じゃあ草食?」
「……草だけでも生きていけそうだけど……正直その辺は微妙………エッチかなりうまかった」
「うわ、ヤることヤッてるし」