第11章 ◉番外 St Valentine Day
注:
イルミが帰って最初のバレンタインのお話。
イルミは出ません。
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本日はバレンタイン前夜の土曜日、しんしんと雪が降っている。このままでは明日もきっと雪、ホワイトバレンタインとはなんてロマンチックなのだろう。
いつもの美結ならそう心を躍らせる事が出来たはずだが、今年はそれすら疎ましくて堪らなかった。
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過度に暖房を効かせた自身の部屋の中、真冬にしては薄手な部屋着のまま美結は客人を迎え入れた。
「遅いー伊織ー」
「ごめんごめん この雪で地下鉄遅れててさ。にしてもこの部屋暑すぎない?」
文句を言いながらスタンドカラーのダウンコートを脱ぐ伊織にハンガーはそこ、と指示を出す。リビングのガラステーブルの上には既に数種類の酒やつまみが並んでいた。
伊織は空いたスペースにケーキの箱を置いてくる。
「はい お土産」
「何これ」
「友チョコ。伊織特製ザッハトルテでーす」
箱入りケーキは、数刻前に伊織自ら料理教室で作ったものらしい。
耳に入ってくるテレビ音声もバレンタインの話題ばかり。やれチョコレートだ、デートスポットだ、手作りレシピだと、美結の気はますます滅入る。
2人で缶ビールの蓋を開ける。乾杯の後、美結はいきなり大きな溜息をついた。
「はあ…にしてもバレンタインだっていうのに私たち2人揃って彼氏ナシって世の中おかしいよね」
「美結と一緒にしないでよ。私は明日相田クンの家でコレと同じの作ってそのまま受注予定だし?」
「うわー嫌な感じー」
「嫌な感じは美結の方でしょ。最近の荒れっぷりマジ酷い!この前の合コン何あれ!?玲奈が明らかにSE眼鏡気に入ってたのに二次会の途中で2人で消えるとかあり得ないよ。どうせどうでもよかったクセに」
「………だって誘ってきたのは眼鏡ですー」
「そこはうまくかわして玲奈に回すとこでしょ!」
反省しているのかはさておき、ありありと沈むオーラを出せば伊織は呆れ顔、はぁと溜息を落としていた。
「ったく。何をいじけてるのか知らないけどヤサグレてないで彼氏作ればいいのに」
「……」