第10章 あなたと私の火曜日
自室へ向け廊下を進んでいると 携帯電話が音をたてる。連絡はシルバから、内容は今宵の仕事に関してであった。歩きながらそれを一通り確認した。
難易度は高くはない、傷の残る身体でも何ら問題はないだろう。
「あんまり時間がない。簡単でいいから早くして」
「かしこまりました」
一旦部屋に戻り 使用人に傷の手当てをさせる。素早い手つきで処置を施す使用人の横に置かれた薬箱がふと目に留まった。
「その中に風邪薬って入ってる?」
「風邪薬…でございますか?この中にはありませんが。…ご気分でも優れませんか?」
「いや いい。何でもない」
すぐに処置は終わる。そして身支度や道具を整え 部屋を出る事になる。
東南向きの大きな窓を全開にすれば 淡い夜風がそっと頬をなでてくる。
細い月が出ている夜だった。
暗に人間を殺害する事が仕事なのだから 人目を欺けるよう少しでも暗い方が都合がいい、一週間のぬるいブランク後の仕事環境としては許容範囲内といった所か。
イルミはすぐに視線を真っ暗な庭へ落とした。
「行ってらっしゃいませ」
背中から聞こえる使用人の声には何も答えぬまま 音もなく窓を抜ける。そしてひとり 夜の闇に姿を消した。
fin