第10章 あなたと私の火曜日
「オレの中でミユの世界に残るって選択肢は元々なかったんだけど。仮にミユをこの世界に連れてきたとしたら確実に仕事の妨げ対象になる。かと言ってあれだけ頼りなくて弱いと放ってもおけないし 構ってやらないとすぐにヘソ曲げて面倒臭そうだしさ。それじゃあオレの方が困るよね?」
「……いや、知らないよ……」
結果は簡単だ。
何もかもを選べる訳ではないのだから そこには必然的に優先順位が生まれてくる。イルミにとってはその1番は揺るがない、ただそれだけの事だ。
ミユへ最後に記した一言。それがイルミの選択である。
「まあ 最終的にオレが思うのは、ミユが元気に暮らしてればそれでいいかなって事」
「………」
何やら自己解決をしているイルミを横目に ミルキは怪訝な表情を深める。
仮想世界での疑似恋愛と言い切る割りに 「元気でいてほしい」などと相手の幸せを願うような物言いは、まるで去り際に恋人に残す最後の一言のようではないか。
何より兄の口から他人を思いやるような言葉が出る事に 違和感を覚えずにはいられなかった。
「じゃ オレ行くよ」
イルミは軽々身体を起こす。首を左右に倒し バキバキ音を立てながら拷問部屋を去った。
ミルキはその背中を見送った後、苦々しく言った。
「……あの手のゲームって 一見バカにしてて興味なさそうなタイプこそ結構本気でハマったりすんだよな……」