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〈H×H 長編〉擬似的な恋愛感情

第10章 あなたと私の火曜日


飛び散る血液も、肉に食い込む傷も、骨まで響く殴打の感触も。この身体は痛みをよく知っているし慣れている、大人しくそれに耐えていればいい。

例えば、あの異世界のミユはこの光景を見たら どういう反応をするだろう。青くなりながら恥ずかしいくらいに取り乱して泣き喚きそう、下手をすれば失神でもするんじゃないかと思う。

徐々に深くなる自身の血の臭いを嗅ぎながらそんな事を考えていると 2時間などあっという間に過ぎ去ってしまう。


「容赦ないね、ホント」

「本気でって言ったのイル兄だよ」

「あー痛い」

「念でガードしてるから対して痛くないくせに」

「痛いものは痛いってば」


ミルキは 血を流しながらもけろりとした口調を少しも崩さない兄を見る。

才能ある弟とは違った意味で この兄もまた優秀なんだと思う。ミルキから見れば厳しく威厳ある父や祖父に怒られている所は見たことがないし、いつも半ば対等な立ち位置で話をしているように見える。
故に兄の犯した今度のミスは極めて異例、興味本位に探りを入れたくなる。


「今回の事パパに怒られた…?」

「親父よりも母さんの方が怒ってた」

「ママが?珍しいね」

「一応は反省してるんだけどな」

本気で悪いと思っているのかいないのか、表情が少な過ぎてミルキにはよくわからない。ただ きっちりと言っておきたいことはある。ミルキは声を張り上げた。

「イル兄が今までみたいに色々やってくれないとこっちにも火の粉かかるかもしれないし。ほんと頼むよ」

「ミルキまで説教?さすがに落ち込むな」

「仕事の品質と納期は最も大事だってパパはよく言ってるし。それを破ったわけだし 罰則も説教も当然なんじゃないの?」

「ならオレが留守にしてた一週間の仕事を少しはフォローしてくれたらよかったのに」

「タダじゃやらないよ。それに先にサービスだけ提供して後の取引で揉めるのもゴメンだし」

「ま、正論だね」

イルミは こめかみから流れる血を手の甲でくるくると拭う。ミルキの興味はまだ続き 次なる質問を投げ掛ける。

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