第10章 あなたと私の火曜日
【パドキア共和国 ククルーマウンテン】
「イルミか」
「うん。ただいま」
自室よりも先にまずは父の部屋へ向かい、イルミはシルバの前に立った。そしてこの世界に戻ってきた時のことを頭の中で思い出していた。
乾いた風がふく荒野に似つかわしくない 近代的な研究所。この場所は忘れもしない。
一週間前、イルミが仕事中のふとしたミスで念能力をかけられる羽目になった所だ。
あれから想像通り、トウキョウトミナトクのミユの部屋から元いた場所に戻る事が出来た。まずは無事の戻りに安堵するが そればかりを噛み締めている訳にもいかず、イルミはすぐに帰路につく。
そこから実家のあるククルーマウンテンまではかなりの距離もあり 結局帰宅するのは翌日の夜になってしまっていた。
「よく無事に戻ったな」
「なんとかね」
一週間もの間、完全なる音信不通であったのだから 父は当然最悪のケースも想定していただろう。シルバの口から叱咤よりも先に労いにも似た台詞が出たのは その為だろうかと予想した。
シルバはすぐに一週間と1日前、何が起こったのかの説明を求める。イルミは簡潔に要点をまとめそれを話した。
今回のミスについては説教も処罰も覚悟の上だった。話を聞き終えるとシルバは重々しく腕を組む、そして 低い声をはっきり部屋に響かせた。
「事情はわかった。だが元々は手に負えぬ仕事を任せているつもりはない。今回の件はお前の些細なミスだと判断する、罰則を受けてもらうが異論はないな?」
「ないよ」
「すぐに拷問部屋に行け。時間は2時間、頭を冷やしてこい。その後はお前が留守にしていた分の余剰案件を優先順位の高いものから処理するよう指示を出す」
イルミは大きな目をきょとんとさせ シルバの顔を見る。父は鋭い瞳をイルミに向けていた。
「なんだ」
「2時間?それだけ?」
「そうだ すぐにミルキに依頼する。文句があるのか?」
「いや ないけど」
「なら早く行け。これ以上時間を無駄にするな」
想像より、処罰が随分軽いと思う。
それに越したことはないのだが 少し拍子抜けした気分になる。命令通り父の部屋を去ろうとすると 後ろから一声かけられる。