第10章 あなたと私の火曜日
「……ね、先輩も良ければ今度一緒に合コン行きません?友達に顔の広い子がいて 色んな業界の人とコンパ組んでくれるんです」
「え?!ほんとに?!行きたい!!そうでもしないとうちの会社じゃ次の出会いもないしね~。一握りの良さげな男はみんな妻子有り、独身で残ってるのは窓際族ばっかだし」
「あははっ ホントですよね」
「あれ?でも河合さんはその彼の事また会えるって信じてるんでしょ?合コンでいいなって人がいて、そんな時にその彼が戻ってきたらどうするの?」
「……まあ、その時はその時です」
美結は人差し指を口元にあてる、ふふっと小悪魔めいた笑顔を見せた。先輩の視線が美結の人指し指の爪先に飛んだ。
「……割れちゃってるね ネイル」
「ああ、これ」
「せっかく可愛い柄なのに勿体無い。どうしたの?」
それには無言の笑顔で答えた。
薄く割れた人指し指のジェルネイル、普段であればすぐに直したい所だが しばらくはこのまま残しておこうと思っている。
最後の夜にイルミが残した 当事者達だけが知る甘く淫らな秘密。あの夜は確かに、心を通わせ熱く求めあえたはずだ。見るたびにその余韻に浸るのも悪くはない、そう思いながら爪先を見つめた。
物思いに耽っていると 先輩の声がはっきり耳に届く。
「そういえばさ、聞いてなかったから聞いていい?」
「何ですか?」
「河合さんを振るなんて……一体どんな人だったの?」
「……そうですね……」
何と言えば適切なのだろうか。
少し考えてから、本心とおだてと嫌味を込めて答えを返した。
「あんな経験をさせてくれる人はまずいないかなぁって感じのちょっとイイ男。意地悪だけど」