第10章 あなたと私の火曜日
思いを口にすればそれが意味を持ち力を持つ、イルミに告げた素敵な神話に縋ってみたくなった。
イルミ曰く、美結は呑気者だ。ならば呑気者らしく現実離れした思いに耽ってみようかと思えてくる。美結は口元をふわりと緩めた。
「……1度はここへ来る機会があったんだから もしかしたらまた来るかもしれない。また逢えるって信じようかな……」
「でも国まで跨ぐと色々事情があって大変なんじゃないの?」
「確率論で言うと1度起きた事象が再び起こる確率は、何もなかった場合に比較して飛躍的に上がるそうですよ?」
願いを語るならば沈んだ表情よりは可愛い笑顔の方が効果的だろう、得意の表情を作ってみる。先輩の論点は少し違う所にあり、目を丸くして美結の顔を覗き込んできた。
「……ちょっと驚いた」
「何がですか?」
「河合さんて夢見がちな女のコって感じなのに才女っぽい事言うね」
「受け売りですけどね。大学の頃 理学部の人と付き合ってたので」
過去のものでも恋愛経験は少しも無駄にはならないから不思議になる。
「スマホ鳴ってるよ」
「ん?あ、私ですか?」
テーブル置いてあるスマホが震えていた。連絡主は友人の伊織だ、さらりとLINEの用件を確認すれば 次なる合コンの誘いであった。
先日の合コンでは苦い経験をした。危険な時にナイトのごとく助けてくれたイルミを思い出せば 胸はまだまだ苦しかった。
真正面から「男を舐めない方がいい」、なんてきつい助言をくれた男性もイルミが初めてだった。
“次のお相手はアパレルメーカーのマネージャー職で〜す!オシャレ度は間違えなし!!”
伊織の誘いはいつだって明るく楽し気だ。合コン自体が悪ではないし 先輩にも話を持ちかけてみる。