第10章 あなたと私の火曜日
「……河合さん こーんなに可愛いのにね」
「え?」
「外見もだけど 話してみると中身もいい意味で普通だし」
「どういう意味ですかー それ」
「“魔法の国からきた魔女見習いなんですっ♪”とか言っちゃいそうなのにちゃんと広島の田舎出身だし、って意味」
「あはは おっしゃる通り」
「……そんな河合さんでも振られる事ってあるんだなーと思って」
「…………」
美結はおそらく恋愛の分母数が普通よりもやや多い、故に苦い経験だって色々ある。口を尖らせ答えを返した。
「ありますよ そりゃ。……でも今回みたいに告白と同時にその場でバッサリ完全玉砕したのは初めてかも……」
「そっかー。もう諦めるの?」
「…………」
「私は簡単に諦めつきそうもないんだよねぇ。河合さんは?」
それについては胸が痛い。
もしも二度目があるのなら、もう一度会うことが出来るのなら。
さらに自分に恋をさせたいし、自分ももっとイルミを好きになりたいと思う。次こそは疑似恋愛なんかじゃなくて、芽生えた恋を大切にして 大きな愛へ育てたい。
当然それは叶わない訳で 沈んだ声で答えるしかなかった。
「自分の国に帰っちゃったから……もう会えないんです」
「そっか。なら辛いね……」
会話が止む。美結は手元の濃い焼酎を一気にぐいと飲み干した。
空いた美結のグラスに酒を注ぎながら、先輩の気遣いの声が聞こえてくる。
「……同じ都内に住んでるだけ私はまだいいのかもね……会おうと思えば会えないワケじゃないし……」
「でも長く付き合ってて別れた方が辛いと思いますよ……思い出も沢山あるだろうし 今更会うのだって辛いだろうし……」
「辛くてもさ、また会いたいって思っちゃうんだよねー」
「……そう……ですね」
出来ることなら 叶うのなら、美結だってそうしたい。
たったの一度でも。どうか、もう一度だけ。
そんな時 イルミに教えたこの国の言葉をふと思い出した。
「……先輩 “言霊(ことだま)”って知ってます?」
「言霊?うん 言葉くらいは」