第2章 期待と不安の火曜日
「今日は昨日より早いね」
「うん。…イルミの事が気になったし」
「オレの事は気にしなくていいってば」
「…気になるよ さすがに」
「ほっといていいから」
少し意味深に言ってみたつもりだが反応は薄い。ガラステーブルには朝のカップラーメンが置かれたままだった。
美結は一旦寝室に入る。
いつものようにパフスリーブ&ショートパンツの上下セットの部屋着に着替え、シュシュで髪を無造作に束ねながらリビングに戻った。
購入した弁当をガラステーブルに取り出し、冷蔵庫にある水出し麦茶を二つのグラスに注ぐ。テキパキ食事の用意を進めているとイルミがやや身を乗り出してくる。
「オレの分まで買ってきてくれたの?」
「うん さすがに毎日自分だけ食べるのも気が引けるし。値引きのお弁当だし遠慮しないでいいよ。いただきまーす!」
割り箸をパキンと割った。
イルミは美結の手元をじっと見つめている。
「器用だね」
「ん?あ、ネイル?まあプロの仕事だしね」
「そっちじゃなくてこっち」
「あ、……箸?そっか、イルミは箸を知らないのか…」
「知ってはいるけど使った事がない。割ればいいの?」
イルミは美結の所作を真似るというにはお釣りが来るくらい綺麗に 割り箸を真っ二つに割いて見せた。使った事がない人間には箸は難易度が高いかと思い、フォークを出すかと聞いてみる。
イルミはそれを拒否し 美結の手元を見ながら見様見真似で箸を持ち 弁当に手をつけ始めた。
「……本当に箸使った事ないの?」
「うん。でも見た事はあるし目の前に手本もいるし何とかなる」
「そっちこそ器用だね」
「そうかな」
所作はゆっくりでぎこちないが初めてでここまで使えれば上出来な方だろう。美結は感心した顔でそれを見つめ、自身の弁当の白米に豪快に箸を入れた。