第9章 あなたが帰る月曜日
半ば放心状態でしばらくはテレビ画面を見ていたかと思う。
こんなにも感傷的な状況だというのに人間とは生理的な生き物で この時間ともなれば多少なりの空腹を感じる。それでもやる気は出ない、料理も買い出しも面倒で この場から一歩たりとも動きたくなかった。
テーブルの隅に置きっぱなしにされているもみじ饅頭の箱があった。それが食べたいと思うわけではないが 饅頭に手を伸ばす。封を開けると小さく開いた口でそれをもそもそ食べはじめた。
「……あま」
普段であれば大好物なはずだ。
ただ、今は泣いた後の上に寝起きであるし 口の中で張り付くような甘さが不快で 食べた事を後悔する。冷蔵庫にお茶くらいはあっただろうが それを取りに行くのが面倒で 再び膝を抱えた。
「…なにこれ…」
焦点のずれた虚ろな瞳に光が戻った。
テーブルの上に置きっ放しにしてあった千円札の間に白い紙が見えた。美結は咄嗟にそれに手を伸ばした。
そこにあったのは小さなメモ用紙だった。右下に付いているキャラクター柄には見覚えがある、メモ用紙自体は美結の部屋に置いてあったものだ。
まばたきも忘れ、食い入るようにそれを見つめた。すぐにそこに書かれている文字に目を奪われた。
「………これ」
そこに記されていたのはイルミが暮らす世界の文字だった。一度だけイルミの携帯画面でその記号のような字体は見たことがある。
初めて見るイルミの筆跡を見つめた。走り書きをしたような素早く書かれた印象に見えるが 元の文字を知らないが為にうまいのか下手なのかすらわからなかった。
メモ用紙に指先を落としてみる。文字を何度も辿りながら、必死に思考を巡らせてみる。