第9章 あなたが帰る月曜日
美結はゆっくり目を覚ました。
頭も身体も異様に重くなかなか思考が動かない。薄く目を開けば寝室の天井が視界に入ってきた。しんとした部屋はすでに暗くなっていて あれから数時間は経過しているであろう事がわかった。
部屋は無音で微かな音すらしない、この家の中には美結以外の人間は誰も存在しない事がわかった。
怠い身体を無理矢理起こすと目の前がぐらんと揺れるし首の付け根に鈍痛が残る。その余韻を受けて 刹那忘れていた数時間前を思い出した。
何らかの方法で美結の意識を奪い、当初の予定通りに元の世界へ帰って行ったイルミの事がすぐに頭に浮かんだ。
先程はあれだけ動揺していたのに イルミが使った妙な技のせいなのか 気絶の名残りなのか、心は凪のように大人しかった。
美結はリビングに向かう。
さっきは部屋を見る余裕もなく気づかなかったが、ソファ前のガラステーブルにはこの部屋の鍵と二つ折りにされた千円札3枚が置かれているのに気づいた。
鍵はともかく紙幣は美結自身も渡したことを忘れていた。結局は一銭も使わずに持ったままにしていたのかと思うと この世界そのものを否定されたような大げさな気持ちになる。小さな溜息が出る。
時計を見れば20時を過ぎていた。
ここでようやく部屋の電気をつけ、その流れでテレビもつけてみる。一人きりの無音空間が物悲しく 音でそれを誤魔化そうとした。
ソファに座り、膝を抱えて小さくなる。
ぼうっとしながらテレビを見つめた。見たいわけでもないバラエティ番組の明るい声が 部屋に空しく響いた。
身体がうまく動かないので目線だけで部屋を見渡した。改めて見ると この部屋はこんなに広かったのかと、ありがちな感想を持った。
先程泣いたせいか瞼がえらく重い。ある種の防衛本能でも働いているのか、不思議と今は思考が止まったまま 涙は出なかった。