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〈H×H 長編〉擬似的な恋愛感情

第9章 あなたが帰る月曜日


イルミは美結の登場にも 全く驚く様子はない。
深呼吸をしながらその理由を問えば 足音と気配でわかったとの返答が返ってきた。

「ミユ 仕事は?」

「大丈夫、…抜けて来た」

「そう」

くるりと背を向け部屋へ足を戻すイルミの後姿に ドクンと心臓が跳ね上がった。

この世界に来た時に着ていた服が現実をリアルに語る。たかが洋服一つであるのに、その後ろ姿と雰囲気はミユの知るイルミとは別人に見え 何を言ったらいいのかわからなくなる。

でも、時間がない。

こんな所で怯んでいる場合ではないと拳を握り 窮屈なパンプスを脱ぐ。イルミの後を追い部屋の中に入った。

「あと数十分だと思うけど見送りに来てくれたの?」

「えっと…」

「それか何か忘れ物でもあったの?」

「そうじゃないんだけど…」

「じゃあなに?」

「だから、…えっと…っ」

それくらい察して欲しいと思う。ただそれをぶつけるには相手が悪いことは重々承知している。

喉元が 熱くなる。

結局出てくるのは言うだけ無駄だとわかっている素直な本心でしかなかった。

「……行かないで……っ」

「それは無理だって朝言わなかった?」

「やだ…イルミ行かないで…」

我ながら芸が無いと思う。答えは既にもらっているし納得もしている筈。それでもなかなか他の言葉が出て来ない、不毛な想いをぶつける事しか出来なかった。

「行かないで…っイルミがいないと寂しい」

「そう言われてもね」

「もっと一緒にいたい…一緒に行きたい所もしたい事もまだ沢山ある」

「無理なものは無理だってば」

「お願いっ…そばに居て」

「何を言い出すの?今更。出来ないことは出来ないよ。それをわざわざ言いに来たの?」

「……っ、」


イルミの言う事の方が真っ当で正論なのは美結自身もよくわかっている。

それでも、冷たい物言いには反射的に反論の言葉が出る。声を荒げる事など普段殆どないし 自分でも加減がわからなかった。


「なんなの……」

「え?」

「大体……大体イルミは意地悪なんじゃけ!か弱い女のコにゃあもっと優しくするもんじゃろ!こんなに頼んどるんに聞く耳持たんなんて酷すぎるじゃろ!
あんたアホなんじゃないん?!このまま…、


このままサヨナラなんて出来るわけがないじゃろ!!」
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