第9章 あなたが帰る月曜日
「……イルミと過ごした一週間 楽しかったよ」
「そう」
「……イルミは?」
「楽しいというよりは貴重な体験をした。仕事と関係なく他人の事を考えて過ごした一週間は初めてだったしね」
「そっか」
回された腕が緩んだ。
本当のほんとうにタイムリミットだ。月曜日は忙しなくて待ってくれない。下を向きながら部屋を出るしかなかった。
◆
元々月曜日は苦手である。
楽しく過ごした週末の余韻を一気に現実色に塗り替えてしまうし、満員電車は遊び明けの身体には辛いものがある。
混雑する電車内で、ここ一週間 一気に触る事の減ったスマホをいじった。
「……」
美結本人の気持ちとは関係なしに 男性からの他愛ない連絡やデートの誘いは入っているし、地元の母からも無事に帰れたかを確認する内容のメールが届いていた。
それらに当たり障りない返事を返してから 登録しているSNSサイトを幾つか覗き、知り合いの自慢話が羅列するそれらを流し見してみる。今は少しも興味が持てないし見たい訳でもなかった。それでも何かしていないと悲しい気持ちを隠せない、そんな気がしていた。
職場へ入ればそんな余裕もなくなってくる。
寂しさを紛らわせる事が出来ると思ったのは正解で 朝から朝礼やメール処理、雑務にしろ打ち合わせにしろ 回される仕事は色々ある。感傷的な気分にのみ浸ってもいられなかった。
普段であればインターネットでこっそりランチをする店を探したり、ネイルやヘアサロン情報を見たりとうまく時間を画策するのだが 今日は業務にのみ集中する。皮肉にも普段より効率的に真面目な仕事が出来ていることに 心で苦笑いを浮かべた。
そんな午前中はあっという間に過ぎ去り、昼食時間に入る。
腕時計に視線を投げれば正午過ぎ、おそらくは15時過ぎに帰ると言っていたイルミがこの世界を去るまであと3時間だ、きゅっと下唇を噛んだ。
外に好きな物を食べに行く気分にもなれず 社員食堂で対して美味くもない食事を終えた。