第9章 あなたが帰る月曜日
余りにも即答ではっきりと返された。
つい目を大きくし イルミを真っ直ぐ見つめてしまう。
情と離れた感覚の中で合理的にのみ生きている人間の返答にしては意外に思え、その真意を探りたくなる。まばたきを忘れ食い入るように視線を固定していると イルミはさっと腕を組み、普段の調子で話出した。
「元の世界に帰れば日常に戻る。オレの生活の中に恋人は必要ないし、そういう意味では期間限定ではあったけどミユはオレにとって最初で最後の恋愛体験なワケだし忘れたりはしない」
「イルミ……」
「一生ね」
「……………」
愛を語るには口調も態度もさばさばしすぎている。でも、イルミ本人は自分の台詞にどれ程の意味を含むのか それに気付けていないのではないか、そんな気がした。
美結は視線を上げる。最近では慣れたイルミを見上げる角度を通り越す。思い切り真上を向けば玄関の丸いライトが視界に入ってくる。
「もーやだ…月曜の朝からメイクが崩れちゃいそう…………っ」
「化粧しててもしてなくてもそんなに変わらないよ」
「…………イルミ」
「なに?」
「最後に……ぎゅってして」
「いいよ。」
伸ばされた手が美結に近づく。掌がそっと首の後ろまで移動し、そのまま引き寄せられれば 頭がイルミの胸元に沈んだ。
従うようにそこに額をくっつける。イルミの指は美結の髪を撫でてくれる。
「……イルミっ」
ほろ苦い雰囲気に浸っていると イルミにきゅっと髪を握られる、イルミの胸元から 美結は下がる目元を上げた。
「まぁ ミユにとってオレはその他大勢の男の通過点の一人なんだろうけど」
「……そんな事ないっ」
「オレにとっては特別だって言ってるのに。嫌な女」
「……私にもイルミは特別だもん……っイルミみたいな人は他には絶対いないもん」
抱き着くように 再び顔をイルミに埋めれば、背中にイルミの腕が回る。大きな身体に包まれた。
こういう場合になんと言えば有終の美を飾れるのだろう、抱き締められる中 そんな事を考えてみるが上手な言葉はわからなかった。
結局は マニュアルめいた至極無難な言葉しか言えなかった。