第9章 あなたが帰る月曜日
「……行けるものなら行きたいよ」
「まぁ無理なんだけどね。そもそも念をかけたのオレじゃないしオレにどうこう出来る問題じゃない」
「……どうにかして」
「無理だってば」
元々 愛国心もないしこの世界でやり残した事があるかと言われれば思い当たることもない。運命的なこの出逢いに第二の人生にかけてみたい、そんな夢物語のヒロインを演じる自分をどこか客観的に見るもあまりにも現実離れだ。答えはそれしか出てこなかった。
「着いた。行くよ」
「……うん」
エレベーターは直ぐに一階に到着する。イルミは小さな箱を出る。
スラリと縦に長い後ろ姿を見ながら、そろそろ現実に戻らなければならない時間だと何度も何度も 再認識をする。
会社に行けば仕事はいくらでもあるだろうし 週末になればどこかの男とデートの予定があったような気がする。伊織からもまたすぐに合コンやイベントの誘いが来るだろう。
足を踏み出しホテルを出れば昨日同様のいい天気だった。その眩しさに思わず目を細めた。
「……わ、いい天気」
「そうだね」
「イルミの世界は雨だったりして」
「それは帰ってみないとわからない」
イルミと会話をすればするほど、目の前の現実を見る事しか出来なかった。
感傷的な気持ちのまま口数少なくアパートへの道を歩き出した。すぐに駅へ差し掛かるが 時間も早いせいかまだそれ程人は多くなかった。
駅に立つと昨晩の会話が頭に蘇る、美結は自嘲気味に笑いながらイルミに話し掛けた。
「昨日の夜この駅も見納めって言ってたけど、今日になったね」
「確かにね」
「……早く帰りたいって焦ってるって言ってたけど、やっぱり今も早く帰りたい?」
「現段階では帰れるって確証があるワケじゃないから。無事に戻れるまではその焦りは消えない」
「……そっか」
イルミからすれば当然の答えだ。
美結の顔から次第に笑顔が薄れた。