第8章 最後の夜
「こういう時間好き。幸せ」
「こういうって?」
「イチャイチャした後こうやってまったりする時間」
「これをしたい為にヤりたかったの?」
「…そこまで言われるとちょっと違う気もするけどそれも含まれてるといえばそう」
「ふーん。まあいいよ オレは先に出るから余韻に浸ってたら?」
「…ちょっ…イルミ…っ!」
片手で簡単に引き離されると イルミは1人で風呂場を去る。
美結は眉を落とし小さな溜息をつく。ただ今夜はこれで怯む気は毛頭ない、急ぎ浴槽を後にして 部屋に置いてあるバスローブに似た簡易な物を身に纏いイルミの後を追った。
想像以上にイルミは淡々としていた。
髪の毛乾かしてとお願いすれば 自分でやれと返させる。冷蔵庫に備えられているサービスのお茶を飲ませてとせがんでみれば「子供なのか」と一括されてしまった。
「……あ!カラオケやゲームもあるね 何か歌ってみる?」
「オレこの世界の歌知らないし」
「それもそっか……ねえ、なら私が歌ってあげよっか?歌声可愛いって回りの評価高いんだよ」
「ふうん。歌いたいならどうぞ」
「聴きたいって言ってよ!」
ベッドの真ん中に座り 興味の薄い返答ばかりをするイルミの背中に 美結は後ろから抱き付いた。
余韻に触れる甘い時間へ誘い込むべく身体をぎゅっと押し付ける。御構いなしにイルミに全体重を預けた。
「イルミ……」
「なに?」
「今日は恋人同士なんだから一緒に余韻に浸ろうよ……」
「余韻よりもオレは実際にミユに触りたいけど」
「え」
「もう一回くらいは出来る?」
「…………」
「歌声よりも、感じてる時の声の方がミユは可愛いと思うよ」
「……イルミでもそういうこと言うんだ」