第8章 最後の夜
「それは脱がないの?」
「……だって」
「まぁいいか。後でどうせ脱がすしね」
「…………」
いつの間にか、少しの距離をもってベッドの上で向かい合っていた。
美結の視線が改めてイルミに向かう。初めて見た時は気付かなかったが 脇腹に残る傷にふと目が止まった。薄くなってはいるし古い傷に見えるが そこそこ範囲は広い、思わず目を細めてしまう。美結の視線を汲み イルミがそれを説明しだす。
「ああこれ?小さい頃親に付けられた傷」
「…え」
「親父にとってオレって1人目の子で訓練する時の力加減とかそういうのわからなかったらしくてさ。この時は流石にヤバくて 親父はじいちゃんに相当怒られてオレはしばらく寝込んだらしいけど」
「………」
「小さかったし覚えてないけどね」
さらりと話しているがその内容は余りにも過酷だ。他人の家庭事情に口を出す気はないが 眉をひそめずにはいられなかった。
「何事も学習だよね。そのおかげで親父は弟達は1人も殺りそうになったことはないし」
「…………」
平然と話しているイルミに四つん這いで距離を詰める。身体を屈め 吸い寄せられるようにそこへ顔を近づけた。
「……痛かったでしょ?」
「だから覚えてないってば」
瞳を瞑りそこへ唇を押し当てた。少しでも愛ある癒しを、そんな気持ちだった。
優しいキスの後、徐々に舌を這わせてみる。くすぐったがる様子もなく微動だにしないイルミをちらりとだけ上目遣いに見れば、頭を2、3度撫でてくれる。
腹の真ん中に位置するくぼみが横から視界に入る。前後左右をやわやわ往来しながら そこへ顔を移動させた。
すっきりした形のそれに唇を押し当てる。触れる程度にそっと、丁寧に舌先を滑らせていると 上から声が降りてきた。
「ヘソは性感帯じゃないけど」
「……じゃあどこ?」
「わかってるくせに。その下」
いよいよ真正面から、窮屈そうにズボンを押し上げているモノに目を向ける。それをそっと掌で包み込んだ。
「…………。」
特有の硬度を持つその質量に美結はにわかに目を細める。手を伸ばしたのは自分であるが 何故だか少し躊躇してしまう。
イルミはすぐに美結の戸惑いを読み取り ズボンの前を緩めながらそれを問う。