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〈H×H 長編〉擬似的な恋愛感情

第8章 最後の夜


全てを見透かす黒い瞳がこちらに動いた。
それを素直に鵜呑みにするべきかはわからないが イルミのことだ、並大抵では測れない人間の野生本能みたいなものを持っている点は頷ける。
気まずい空気だけが残る。

「……」

「黙るって事は納得済みってことだよね」

「…そういう、ワケじゃ…」

虫が良くも、一瞬で崩れてしまった雰囲気を今更ながら申し訳なく思った。美結はバツの悪そうな顔をし 視線を外した。

「驚く程空気読めないね ミユって」

「………ごめん」

キッパリ言い捨てられた。イルミだって空気を読むのが得意なタイプには見えないが それには触れず今は大人しく謝罪をするのが吉だろう。

イルミは小さく息をつく。そして上半身に着ていた服を卒なくばさりと脱いでしまった。美結の視線は自然にそちらへ向かってしまう。

「なに?」

「…ううん、何でもない…」

事実、イルミの身体を見るのは2度目ではあるが。
気を利かせた暗がかりでは 必要以上に鍛えられた肉体は筋肉を綺麗に浮かして見せる。逞しく締まった体型を目の当たりにすると 一気にイルミが男らしく見え、素直にドキリとした。

「…イルミって…」

「なに?」

「…脱ぐとスゴイよね」

「すごいってなにが?」

「…ボディが、意外にもマッスルというか」

「? 必要性によってこうなってるだけだと思うけど」

褒めたつもりだったがイルミはそう受け取ってはいないのか。イルミはこちらにも同じ要求を突き付けてくる。

「脱いで。ミユも」

「えっ?!……や、イルミの後で ヤダなんか…私別に…脱いでもそんなすごくもないしっ」

「うん。さっき触った感じでその辺はわかってるから」

「っ!!!…やだっ!絶っっ対脱がない!!」

「じゃあ言い方変えようか」

「え?なに…」

「空気読んでよ」

「…………」

「しようよ。続き」

こんな時は意地を張らずに観念するのが早いのか。美結は小さな苦笑いの後、ゆっくりニットに手をかけた。

「あっち向いてて」

「え なんで?」

「……恥ずかしいから」

大人しく言う事を聞いてくれるイルミはくるりとこちらに背を向ける。その間に 美結はそそくさ服を脱ぐ。流石にいきなり全裸になるのは勇気が必要で 半端に乱された上下の下着をさっと元に戻した。
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