第8章 最後の夜
すぐに口を塞がれた。
押し付けられた唇から口内に柔らかい舌が押し入ってくる。力のない自身のそれを取られ 裏側をつ、と辿られた。身体を抜ける淡い快感に身を委ねれば、どんどん行為は深くなる。
「…ッ、…ん」
噛み付くように執拗に繰り返されると呼吸はすぐに乱れてしまうし 最終的には酸素を求めて逃げ道を探すしかなくなってくる。とろとろ熱くなる口内はまるで自身の身体ではないように言う事を聞かない。なされるがままだった。
それを解放しようと無理矢理に顔を背けた。
「はぁ…苦し…っ」
「もう少し我慢して」
「んっ……ッ、」
顔を掴まれ再び唇を押し付けられた。
イルミは当たり前に美結の舌を追い求めてくる。
息つく間もない程に激しいキスの中では 絡み合う感触や唾液が混ざる音、甘い会話を楽しむ余裕もなく 無意味と知りながらビクともしない胸元を押し返す事しか出来ない。美結の目尻にほんのり涙が浮かぶ。
ようやく、ゆっくり唇を解放された。イルミはなだめるようにほんのり汗を帯びる美結の額を一撫でしてくれる。
イルミは相変わらず普段と少しも変わらないまま、美結の耳元に唇を寄せてくる。微かに耳朶を舐められた。
「はぁ…っはあ…」
「ほんとに体力なさそうだね」
「そんな事、ないよ…高校の頃は…テニス部だったし…」
それには返答はなかった。
いつの間にか、左胸を服の上からゆるゆると撫でられていた。
布越しに先端部が反応するのがわかる、誘うような淡い刺激に 口から濡れた吐息が漏れてしまう。舌が丁寧に耳をなぞってくる。
「は…ぁ…っ…」
「興奮するのが早すぎやしない?」
「だって……っ!!」
上半身に身につけていたゆるい鍵編みのニットを 下に着たキャミソールごと上まで捲り上げられた。下着のみの胸元にじっと視線を落とされればそれだけで身体が疼く思いだった。