第8章 最後の夜
「ミユの心臓の音が聞こえる」
「……そう」
そのまま圧力をかけられれば柔らかい胸は簡単に沈むし 服や下着の上からでも伝わる指の感触が脳に刺激を伝える。イルミの手が淫らに身体を辿る事を想像してしまう。
「心拍数が上がったね」
「…」
焦らすような事の運びは嫌いではないが イルミのそれは少し違うように感じる。イルミの顔を見ているとそう思わずにはいられなかった。
元々感情が読み取れない目の色も、表情が極端に少ない事も、静寂を感じさせる人形のような雰囲気も。少しも欲情しているようには見えないし、むしろ第三者的な立ち位置で冷静に何かを分析している風に見える。
「んッ……!」
突然左胸を掴まれる。大きな掌には簡単に収まる片胸に少しの痛みを感じる程の力、当然身体が無意識に緊張する。
胸を触られる と言うよりは 心臓を握られる。そんな表現の方が近い気がした。
つい表情が強張る。イルミは美結の胸からそっと手を離した。
「あ、痛かった?」
「だ、…大丈夫」
「怖がらなくていいよ。もうしない」
「………」
これまでに得たイルミという人間の情報、それに今の行為を見せられては 怖がるなと言う方が無理な話である。美結の考えを見透かしたのか イルミは普段の調子でケロリとしながら話出す。
「ミユを殺そうなんて少しも思ってないから大丈夫だよ。オレは快楽殺人者でも何かの腹いせに人殺しをしてる訳でもないし」
「…私を殺せるか…頭の中で試してた?」
「あれ バレてた?自分と家族以外はターゲットになる可能性がゼロではないからね。まぁミユなら限りなくゼロに等しいけど」
「…ちゃんと出来た?」
「言わせたいの?」
イルミは早口でそう言い少しだけ目を細くする。その顔はどこか拗ねたようにも見えて、例え話とはいえこんなにも物騒な話をしているのにそこに愛おしさを感じてしまうから不思議になる。
「一瞬、方法を選んだ。」
「そっか」
「嬉しそうだね」
「うん」
下から、イルミの両頬を掌で包む。今度はこちらが拗ねる顔をする、甘くねだる声を出す。
「ねぇ イルミ…あんまり、焦らさないで…?」
「ミユがそれを言うの?この前から焦らされてるのはどっちだと思ってる?」
「…ん……っ、」