• テキストサイズ

〈H×H 長編〉擬似的な恋愛感情

第8章 最後の夜


しばしそのまま抱き合っていたかと思う。
イルミの髪型のせいか気にした事はなかったが こうして見ると頭は随分と小さく感じる。羨ましい程に手足も長いし 元々日本人とは骨格そのものが違うのだろう、そういう系統の人種なんだと理解する。

甘えるように胸元に頭を預けてくるイルミが可愛く見え、さらりとした髪を何度も優しく撫でてみる。

「わ……っ」

「軽いね。よく食べるわりに」

ふわりと身体に不安定な浮遊感を覚える。イルミの動作は時々不思議なくらい卒なく素早く無駄がない。簡単に横抱きにされていた。

「筋肉量が少ないからかな?こんなに軽いんじゃ一生持ってられるかも」

「…じゃ もうちょっと抱っこしてて?」

「いいよ」

半ば冗談であったが 本人は本気の様子、一旦展開がストップする。

こういう抱かれ方は初めてではないが 一般男性なら通常出来ても数十秒 分単位でもてば優秀な方だろう。かつてない安定感を誇るイルミは涼しい顔のままそれを実行しているのだからやはり普通の感覚では測れない人なんだろうと思う。

今度は美結の方がイルミの胸板に顔を寄せてみる、そしてそっと目を閉じる。

こうしていると安心するし落ち着く、イルミの事が好きなんだと思う。折角惹かれあっているのに現実はそれを嘲笑うように酷なものである、ただ外界と遮断されたこの部屋の中にいる間はルールは自分達で作ればいい。

美結は顔を上げてイルミの顔を覗き込む。

「…今夜だけは、イルミの事を本物の恋人だと思ってもいい?」

「いいよ。それは今までのと何が違うの?」

「イルミは私のものだし、私はイルミだけのもの。だから今夜は私の事だけ見てて?私の事だけ思って?」

「さらっと難しい事言うね。」

背に心地いい腕の感触が柔らかいものに変わる、ベッドに下ろされたと気付いた。ベッドの端に腰掛けながら 半分程覆い被さるよう、じっと見下ろしてくるイルミにふっと軽い笑顔を向けた。

「さすがに重くなってきちゃった?」

「全然。この方がよく見えるから」

伸びてくる手が美結の頬を撫でた。
手の形が変わり、人差し指が顎から首筋をゆっくり移動する。

動きの一つ一つが官能的に見え、その全てを忘れないよう頭の中に刻みたくなる。静かに下る指先は真っ直ぐに降ろされ 左胸の真ん中で止まった。
/ 158ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp