第7章 思い出の日曜日
それに答えるべく、そっと両腕を回される。
美結の背を数回撫でた後 今度はイルミの方から美結の髪に触れてくる。
くすぶる感覚が心地よくて、自然と瞳を閉じた。
ただ抱き合っているだけで、こんなにも安心と愛情を感じるのだから。未来を縛る言葉がなくたって大丈夫だと 自分を無理矢理信じるしかない。
甘えるように身体を預けてくる美結の両脇に手を入れて、イルミは少しだけ美結の身を起こした。
「ねえ」
「…ん?」
「オレには恋愛ごっこはやっぱりよくわからないんだけど。なんとなくこんな感じで合ってる?」
「…………ごっこなんかじゃないよ!」
美結は首を横に振る。
素直に好きと言い合えたらどれだけ楽になれるのか。
結末の来ない関係が切なくて悲しくて、なのに嬉しくて幸せなのも確かではあって。
「ごっこじゃないの?」
「うん…ごっこじゃない。…それは信じて…」
それでも、美結の自己満足とプライドがある。最後くらいはイイ女で終わりたいと思うし 疑似恋愛の定義は守りたかった。
「……でも大丈夫。この先はなにも言わないから。私がイルミに気持ちを伝えたら、…きっとイルミがもっと困っちゃうもん…」
「そんな言い方じゃ言ってるのと同義な気がするけど」
「……日本には言霊って考え方があってね……」
言霊(ことだま)。
今までそんな単語を使った事もないのにふと頭に浮かんだ、自身に言い聞かせるように説明をする。
「言葉にするとそれが意味を持つし力を持つの…だから言わなければ大丈夫…明日からはイルミはちゃんと元に戻れるよ…元の自分に…元の生活に、………ちゃんと戻れるから。」
「言い訳にしか聞こえないよ」
イルミの腕がまたも背に回る。その動作に 小声で返事を返した。
「…………抱いて」
「今日はやめないよ。最後まで」
触れる腕の力が強まった気がした。