第7章 思い出の日曜日
「オレは普段決まったスケジュールの中で生活していて、もちろん不測の事態はあるし臨機応変に対応はするし対処出来るように常日頃から備えをしてる。だから焦る事や困る事って殆どないんだけど」
「うん…」
「この世界にいるとさ 自分が自分でいられなくなるような気がする」
「え、…」
急だった。らしくない発言に目を向ける。イルミの真っ直ぐな眼差しは相変わらずだ。
だが先の言葉へ続くまで幾分かの間が、確かにあった。
「情を持たずにただ仕事をこなす事を教えられて 弟にもそれを教えて、ずっとそうして生きてきたオレがさ。ここにいるとその感覚がなんか狂う気がする」
「………」
「ミユの傍にいるときっとオレはダメになる」
「………」
「だから早く帰らなきゃってこの前から少し焦ってる」
「…イルミ…、っ…」
“誰かを好きになる事はダメになるなんて事じゃないと思う”
そう言えたら楽だったかもしれない。だが想像でしかない彼の生活環境を自分ものさしで測って語る事は出来なかった。
余りにも不器用で残酷な告白だと思う。ただそれの意図する所はしっかり伝わった訳で、そういう意味では切ない程に嬉しくもあって。そしてそんな告白に対する的確な返答は美結の今までのマニュアルには当然ありはしない。
なんと言ったらいいかわからないまま イルミに駆け寄った。胸にイルミを抱き締めていた。
「…ありがとう…っイルミ…」
「なにが?」
「…ううん、いいよ。イルミの気持ちはちゃんと伝わったから……」
自然と腕に力が入る。
イルミの雰囲気は穏やかで身体はとても暖かくて、そこには確かに特別な感情があったはずだ。それを大切に感じたくて 触れるイルミの髪に微かなキスを落とした。