第7章 思い出の日曜日
「なんでここにしたの?」
「深い理由はない。受験番号だったからなんとなく」
「301が?受験て大学かなにか?」
「ある資格が欲しくて受けた試験の受験番号」
この1週間で色々な話をしたが資格の話は初めて聞いた。
一体どんな試験でどんな資格なのか、聞けば説明してくれるだろうが美結には理解が難しい返答が返ってくるのだろうと頭の中で予想した。
狭い窓口で会計を済ませカギを受け取り、エレベーターで指定の部屋へ向かう。
暗いエレベーター内でイルミを見上げた。これから密室で起こる事を想像すればさすがに少し緊張してくる。イルミにはそれがすぐにバレてしまうのだから 悔しい気もした。
「自分から誘っておいて緊張してる?」
「…少しだけ…」
「さすがに今日は邪魔は入らないだろうしね」
「…そ、だね…」
エレベーターはあっという間に3階に到着する。301号室まで足を運んだ。
「わ…お部屋広いし綺麗。イルミのチョイスは正解だね」
自然と明るい声が出た。
黒を基調としたモダンな雰囲気のある部屋で、柔らかい光を放つ間接照明の洒落たデザインも好みだった。
美結と同じように部屋をきょろきょろ見渡した後、イルミは部屋の真ん中にある大きなベッドに腰掛け足を組む。
どこか気怠げに見える雰囲気はイルミの陰影を濃くする。
見惚れたまま 向かい合う位置に立ち尽くしていた。
「まだ緊張してるの?」
「大丈夫…」
「嫌なら何もしないから安心していいよ」
「嫌じゃないよ…」
薄暗い明かりの中で見つめ合う。
何を言うべきか迷っていると、イルミから静かな声がした。
「一週間てのは案外長いんだね」
「え…そうかな?」
「うん 長い。難しい仕事だったり長期化したりするとあっという間なんだけど ここに来て意外と長いんだなって思った」
イルミの言葉に軽く目を見開いた。
ここで初めて、相手の立場に立って物事を考えた。
元の世界では忙しい日々であるらしいイルミが 不本意な形で一週間ものタイムロスを被った、空白とも言えるその期間を長いと感じるのは至極当然である。
ただ、勝手に盛り上がりあっという間の一週間を嘆き悲しんでいたのは自分だけだったのかと思うと少なからずショックであるし やるせなくなる。言葉が見つからなかった。