第7章 思い出の日曜日
「ミユが来たかったのはここ?」
「…………」
「この近辺の地図は前に見せてもらったけど ミユの足で歩ける範囲でこの方面と言えばここくらいしかないと思うんだけど」
実にイルミらしい指摘だ。消去法に似た言い回しで問われると笑顔を見せる余裕がなくなる気がした。イルミの静かな声が続く。
「ここがどういう場所なのか 雰囲気でなんとなくはわかる」
「……そっか。わかってたかぁ さすがだねイルミは」
「オレの世界にもこういう場所はあるし」
「……今夜はイルミと一緒に寝たいなと思って…ほら最後だし!ダメかな?」
わかっていたなら話は早い、あとは入るホテルを決めるだけ。へラリと笑いイルミを見上げた。
「無理に笑うのやめたら?」
「えっ」
「さっきからは不自然だし無理矢理はしゃいでるのが丸わかりでなんか気持ち悪い」
「………気持ち悪いって」
はっきり言われると余計にうまく笑えなくなる、こちらはなんとかして切ない顔を隠すことに必死だと言うのに。
イルミはいつもの調子で切々と話し出す。
「今日ヒロシマに行って思ったよ。うるさいくらい賑やかな家で育ったミユが明日からはまた一人暮らしになるんだから、寂しいと思うのは当然なんだろうなって」
「………」
「でもそれは日常に戻るって意味でもあって仕方ない事でさ。仕方ないけどそれが寂しいんなら無理やり笑う必要はないんじゃない?」
「………」
「昨日まではなんて言うか、感情に素直だったのに。」
「………っ」
「どうして無理してまで笑ってるの?」
いなくなることを本気で嫌だと感じイルミに惹かれている自分を認めてしまうと、いよいよ疑似恋愛ではいられなくなってしまうから。
ここで共に過ごした時間は双方の心に綺麗な思い出として残したい、悲しい恋で終わりたくないから。
言い出せばキリがない。
逃げるように顔を下に向けた。
「泣いてるの?」
「…泣いて、ないよ…」
「無理に笑う必要はないと思うけど わんわん泣かれてもな。泣いてる奴慰めるなんてやったことないし」
「…だから、泣いてないってば」