第7章 思い出の日曜日
「ハイ 一口あげる。あーんして?」
「人前を気にする人種なんじゃなかったの?」
「ん〜今は大丈夫。美味しいよ ゴルゴンゾーラ」
フォークに絡めたパスタを笑顔と共に差し出す。
少し酔いも回っているのか今は周りの目もそこまで気にならない、我ながら現金だとは思う。
やんわり手首を握られる。フォークに巻きついたパスタを口に収めるイルミを満足気に見つめた。
「どう?美味しい?」
「うん」
「じゃあイルミが食べてるのも私に一口ちょうだい?」
「いいよ」
好きなだけ食べたらいいと皿を差し出してくるイルミに、夜の炭水化物は控えないといけないから一口で十分と 矛盾丸出しの台詞で答えた。
夕食を終え店を出る。美結は大きく伸びをする。
一日中いい天気であったし夜も空気は暖かく、頬を撫でる弱い風が酔い覚ましのようで気持ちよかった。
イルミは駅方向へ歩き出す。美結はイルミの上着の裾を後ろからちょこんと掴んだ。
「イルミ」
「なに?」
「……もう一箇所だけ、一緒に行きたい所があるんだけど、いい?」
「いいけど。時間大丈夫?」
明日はまた仕事、美結の苦手な月曜日だ。変わらぬ日常が戻って来てしまう。気遣いめいたイルミの質問に答えを返した。
「ここからなら歩いてもすぐに帰れるから大丈夫だよ」
にこりと笑う、そしてゆっくり歩き出した。
◆
駅からの距離にしたら15分程、夜を照らす繁華街特有の明るさとは少し異なる 淡く柔らかい光を放つ建物が立ち並ぶ場所までやってきた。
自分らのいる場所から少し離れた所には 仲睦まじく寄り添って歩く男女が見える。それに比較すると このラブホテル街を歩くには美結とイルミの距離感はぎこちないばかりだ。
「…………」
何も言わぬまま、少し後ろに着いてくるイルミにどう声を掛けるかを考えた。文字が読めないであろうイルミにはここがどういう場所なのか、どこまで伝わっているのかがわからなかった。
抱かれたいとストレートに言える程慣れ親しんだ仲ではないし、伝わっていないならば黙っていては先に進まない。
美結の足取りが遅くなる。
「ミユ」
ふいに呼ばれて下手な笑顔を作り、振り返った。イルミは無表情であるし 彼の思う所はわからなかった。