第7章 思い出の日曜日
そういえば初めの頃、イルミは護衛がどうとか そんなような事を言っていた。
美結の頭には少し違う思い出が浮かんだ。
たった一週間であったが 何度か一緒にこの場に立った。
水曜日、仕事の後 迎えに来てくれていたり。
木曜日、デートの待ち合わせをしたり。
金曜日、襲われそうになりイルミが身体を張って助けてくれたのもこの辺りだ。今にして思えば宣言通り、きちんと美結を守ってくれていた。
駅が思い出の場所だなんてまるで青春真っ只中の学生みたい、そんなどうでもいいことを思う。
ただ、場所はそうでも状況は彼等とは程遠い。
しがらみや置かれた立場、小難しい事が大人にはついて回る。それを心で小さく嘆いてみる。
美結は少し考える。そして、緩く拳を握った。
「…もう遅くなっちゃったしご飯食べて帰らない?これから帰って作るのも面倒だし」
「いいよ」
イルミはいつもの調子で大きな目を向けてくる。それを見つめ返しながら明るい笑顔で言った。
「行きたいお店があって!逆の改札の方の有名なパスタ屋さんなんだけど普段予約取らないとなかなか入れない人気のお店で。 日曜だし時間も遅いから今なら入れるかも」
「わかった。それでいい」
「やったぁ!」
我ながら空元気だ、と思う。2人は普段の帰路とは逆の方向へ歩き出した。
アパートがある改札口はスーパーや小さな商店街など生活領域要素が強いが、逆の改札口は繁華街。呑み屋やカラオケといった商業施設が多い。
美結が指定した洒落た雰囲気漂うイタリアンの店は駅から3分程度の距離にある 最近出来た話題店だ。まだ店内は既存客で賑わってはいるが 読み通り、待ち時間はなしで入店する事が出来た。
程よく照明が落ちた店内に通され席に着く。
美結はメニューを広げながら向かいに座るイルミに楽しそうな声をかけた。
「イタリアンだしねー ね、ワインでも呑もっか」
「明日ミユはまた仕事だよね 朝起きられるの?」
「大丈夫。明日はまだイルミが起こしてくれるもん」
「オレはミユの目覚ましじゃないんだけど」
「あははっ 確かにね」
メニューが読めないと言いだすイルミに どういう系統のものが食べたいかを聞き、注文を済ませた。