第1章 夏休み
「めっちゃ旨ぇ!」
「実弥、落ち着いて食べなさい。あと、旨いじゃなくて?」
「……美味しいってことか?」
「正解」
私の家ではそういう言葉遣いは禁止されている。
なんか親になった気分だ。
「うっ……美味しいなぁ、この目玉焼きってやつ」
義勇がそう言った。
だけど、旨いって言い掛けたよね?
「三人の服を買わないといけないわね。さすがにずっと着物みたいなのは着せられないし、現代社会にそぐわないからねぇ……」
「それなら私が買いに行きたい!」
どんな服を着せたいか、大体決まってるんだ。
「じゃあ、適当に服を買って着させて、一緒に買い物に行きましょうか」
お母さんの提案に私は頷いた。
「じゃあ、カッコいい帽子も買ってきて。オタクに騒がれると困るから」
実際に私の親友は義勇推しである。
「分かったわ。ちょっと待ってて、行ってくるから」
お母さんはそう言って、慌てて出て行った。
「何で服が必要なんだ?」
義勇が聞いてきた。
「多種多様な洋服を着てないとこの世は務まらんのよ」
適当に返事をしておいた。
そもそも、人間が服を着る原理なんて知らないもん。