第1章 なんか目が笑ってないけど
私が悶々としていると
「ねえ、この後時間ある?」
と聞かれた。
「じ、かん、ですか」
「飲み直さない?2人で」
真っ直ぐに見つめられた視線から
逃れられない私は息を飲んだ。
…わ、私には加茂長さん、という
心に決めた人がいるから…。
「…いや、ダメだ、」
「すげえな今の間、めっちゃ悩んだよね」
「はい、めっちゃ悩みました正直」
「あんた簡単だな」
「へへ」
「褒めてないからね?」
「櫻井さん、加茂長さんに会いたいです」
「知るか、誰よ、会えよ連絡しろよ」
「き、聞いてください!それが!」
「離しなさい、シャツが伸びる」
「え、乙女の話よりシャツの伸び!」
「ほら、話、聞くから早く行くよ」
「い、やでも、にもつが」
モタモタと慌てる私に
「要領いいから」
ほら、と見せる彼の手には
2人分の荷物と上着。
にこにこする彼に唖然として。
「…櫻井さん、ペテンだって言われません?」
「ああ、褒め言葉でしょ?」
黒い笑いを、初めて見た。
ああ、この人、
虐める側の人なんだ。